回折光学素子

回折光学素子(DOE, Diffractive Optical Element)とは

回折光学素子(DOE: Diffractive Optical Element)は光の回折現象を利用した光学素子です。一般的なレンズ等の光学素子は、空気と光学素子の境界面の屈折率差による光の屈折を利用し、光の集光・拡散などの制御を行います。一方、DOEは、光学表面上の微小な構造による回折現象で光の方向や強度を制御します。
DOEの用途は多岐にわたります。例えば、計算機合成ホログラム(CGH、Computer-Generated Hologram)として実現される所望の回折像を発生させるパターンジェネレータ、レーザ光のビーム形状を変更するビームシェイパ―、1本のレーザ光から多数の輝点を形成するスポットジェネレーター、さらに光学系の色収差補正や光学系の温度補償などといった光学機能を実現することができます。

ナルックスの回折光学素子の特徴

  • ナルックス独自開発の設計ソフトによる最適なCGH形状設計、提案
  • ブレーズド形状(鋸歯形状)や階段形状など多様な形状の回折格子の設計・量産が可能
  • マルチレベル(多段)パターンの設計・加工が可能
  • 製品の両面にパターン加工可能
  • 石英の直接加工によるDOE作製の他、樹脂成形によるDOE量産対応
  • 光学機能である分光比や回折効率を自社開発の測定器で測定し、品質を保証

DOEを用いることができるアプリケーション例

  • アミューズメント機器、家電、医療機器、自動車、ロボットなど
    (→ モーションキャプチャー、VR/AR等へのDOEの適用)
  • レーザー加工装置、通信系製品に用いられるビームシェーパーやスポットジェネレータ、および分光器などへの適用
    (→ ビームシェーパーやスポットジェネレーター、分光器等へのDOEの適用)

回折光学素子の用途例

計算機合成ホログラム(CGH, Computer-Generated Hologram)

ホログラムとは、物体光と参照光の相互の干渉によって発生した干渉縞(2次元の位相情報)を記録した光学素子です。ホログラムに適切な光を入力することで、記録した物体光の像を再生することができます。それに対して計算機合成ホログラム(CGH)は、所望の回折像を形成する位相情報を計算で算出し、その位相情報を凹凸形状として具現化した光学素子です。CGHに適切な光を入力することで、計算に用いた所望の回折像を再生することが可能です。CGHは一般的に微細かつ非常に複雑な構造となります。ナルックスは電子線描画などの極限の微細加工技術と超精密樹脂成形により、各種のCGHを製品化しています。

CGH(バイナリー型)
CGH(マルチレベル型)
出射像例
ナルックスのCGHの特徴
  • 独自の光学設計ソフトによる、ゴーストと歪曲補正を考慮した高度な光学設計
  • EB(電子線描画)とエッチングによるリソグラフィー技術を用いた高精細な微細構造の作製
  • 高転写成形によるシャープな照射パターンの実現
CGHを用いたアプリケーション事例
  • 流通や集客施設、産業機器向けバーコード、2次元コードリーダーなどに使用できるパターンジェネレータやターゲットマーカなどへの適用など
    (→ パターンジェネレーターやターゲットマーカー等へのCGHの適用)

DOEによる色収差補正

光学材料の屈折率は可視光帯とその近傍では短波長ほど高くなります。そのため、例えば集光レンズであれば、波長によって焦点距離が変わり、短波長ほど焦点距離が短くなります(正の分散)。この色収差を補正する方法としては、分散の小さい凸レンズと、分散の大きい凹レンズを組み合わせる手法が良く知られています。しかし、この方法はレンズ枚数が増える事がデメリットとなります。一方で、集光型のDOEでは、DOE構造によっては、長波長ほど大きい光の回折角度を得ることができます(負の分散)。つまり、屈折レンズと集光型DOE構造を組み合わせることで、色収差を補正することができ、レンズ枚数の削減などに貢献できます。DOE構造は、平凸レンズの平面側や、曲率を持ったレンズ面に付与することができます。

模式図:DOEによる色収差補正
用途例/使用事例
  • ヘッドライトの配光の色制御(第27回 中小企業優秀新技術・新製品賞)
  • 2波長対応光ピックアップ用レンズ
  • 高解像が要求される携帯電話用小型撮像レンズ
色収差の改善例:LED照明の照射パターン比較

DOEなし

外周のエッジ部に色むら
(青いライン)が発生

DOEによる色収差補正あり

エッジ部の色むらが解消

車載用ヘッドライト DOEの適用による配光の色制御(第27回 中小企業優秀新技術・新製品賞)

関連特許例
  • 車載用ヘッドライト関連特許例
    • ・JP5315505
    • ・JP5909419
    • ・JP6849193
  • 小型撮像系関連特許例
    • ・JP4317933
    • ・JP4992004
    • ・JP4798529
    • ・JP4822033
  • ピックアップ系(BD,DVD,CD3波長対応対物単レンズ)関連特許例
    • ・JP4649572

温度補償コリメータ

光学特性の温度変動は樹脂レンズ設計における課題の一つです。例えば、レーザービームプリンタ等で使用されるコリメータでは、レンズの温度が上がると屈折率が低下し、焦点距離が伸びます。ナルックスはレーザーダイオード(LD)の発光波長の温度依存性と回折光学素子の特性を利用した、温度補償光学系を実現しています。この光学系では、LDの温度が上がると発振波長が長波長化する特性と、回折光学素子の長波長ほど回折力が強くなる特徴を利用し、樹脂レンズの温度による焦点距離変動を抑制します。ナルックスはこのように、自社で生産する光学素子単体での設計に留まらず、光源やディテクタ、組立、使用方法などを含めた製品全体を理解、その特徴を考慮したうえでの全体最適を行う事で、より良い設計提案ができると考えています。

模式図:DOEによる温度補償
用途例/使用事例
  • レーザービームプリンタ用 入射光学系素子(コリメータ、シリンダーレンズ)及び対使用温度環境に課題のある光学素子